Go Down Gamblin' ver.6

私taipaが趣味の世界からお送りします

キャサリン・イーバン「Bottle of Lies」

邦題「ジェネリック医薬品不都合な真実」。内容はそのとおりなのだが、不都合な真実アル・ゴアではなくインド企業の片棒を担いだクリントンを揶揄している点が分かりにくく、原題の方がよく本書の特徴を示しているように思う。ただ、翻訳はたいへん読みやすい。

インドのジェネリック製造会社ランバクシーが、米国FDA(食品医薬品管理局)に虚偽のデータを送って審査を通り、世界中に有害な医薬品が販売されたスキャンダルの経緯をまとめた本である。インドといえばいまや日本を上回るハイテク国家であり製薬国家であるが、前近代的要素が多分に残されている国でもある。

それは、YouTubeでインド屋台料理の動画を見ても分かるのだが(基本的に生ゴミは道路に放置で、ハエが飛び回っている)、シリコンバレーでは多くのインド人技術者が働いており、米国の大学や研究機関にいるインド系研究者は日本人よりずっと多い現状とはかなりのズレがある。現実はどちらに近いかというと、後者とはなかなか断定できないようだ。

この本では、21世紀はじめにジェネリック医薬品のブームが起きて以降の動きから話が始まる。リピトールやアトルバスタチン(私も飲んでいた高脂血症薬。後者がジェネリック)といった聞きなれた名前に興味を引かれて読み始めると、次に出てくるのはインド企業の縁故重視・収益最優先という前近代性であった。

コンプライアンス絵空事という、かつて自分がいた職場を思わせるような記述が続き、前近代的な社風はどこの国でも似てくるものだと思った。そして、そのインド企業ランバクシーは、米国FDAに義務付けられた多くの規制を、虚偽のデータ、つまりコピペでかいくぐって認可を得たのであった。

まるでかつてのリケジョを思い出させるようなやり方だが、ランバクシーは有害・欠陥製品を世に出したのだからもっとたちが悪い。この事件では米国市場に出たので問題となったが、アフリカや発展途上国にだけ出荷したのであれば、いまだに続いていたかもしれない。

日本では厚労省がちゃんと管理しているから大丈夫ということはない。確かに最終製品(糖衣錠にする等)は日本国内で製造されているものがほとんどだが、原剤と呼ばれる有効成分は、いまや中国やインドで作られているものがほとんどなのだ。

だから、問題企業のランバクシーも、第一三共が買収して子会社化し、その後にFDAとのトラブルが表面化した。第一三共もこの本の後半では重要な登場人物となるのだが、いくら専門知識・商品知識があったとしても、言葉が通じなければ難なく騙されてしまうという見本みたいなものである。

「盗人にも三分の理」的な見方をすれば、データが捏造だろうと製造工場が不衛生であろうと、最終製品である薬がちゃんと効けば問題ないかもしれない。この事件でも、最終的には和解(賠償金)という民事的解決が図られていて、刑事罰が科された訳ではない。そのあたり、やや消化不良的な読後感は否めない。

そして、煩雑な手続きが薬価を高めているのはそのとおりなのだが、だからといって諸手続きを無視・捏造していい訳ではない。それは、過去の重大な薬害事件の反省から厳格化されているからだ。サリドマイドも、エイズ血液製剤も、私が生きている間の事件である。

この本から教訓とすべきなのは、医薬品の検査は基本的に製造プロセスの検査であり、どんなに厳格化してもロットによるばらつきは避けられないこと、その結果として、自分の手元にある薬はどうやっても100%の信頼性はないことである。

薬効は取説に書いてあるより少なく、副作用は多いことを肝に銘じなければならない。だから飲み薬だろうがワクチンだろうが、本当は避けた方がいい。どんなに先進国の規制が厳格であっても、有効成分は中国やインドで作られている。彼らがどういうモラルなのか知るすべはないし、そんなことにリスクは取れない。

 

p.s. 書評過去記事のまとめページこちら。1970年代少女マンガの記事もあります。

リケジョのようにデータをコピペして米国FDAの認可を得たインド・ランバクシー社のスキャンダルをまとめた本。ランバクシーに騙されて数千億円で買収してしまった第一三共も登場する。